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秋田地方裁判所湯沢支部 昭和40年(ワ)2号 判決 1965年9月07日

原告 宮原邦助

被告 検事総長 外一名

訴訟代理人 青木康 外二名

主文

本件訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

審按するに原告の主張するところと被告の答弁及び抗弁等を照合すればその間争ないところは自ら明瞭で、争点はかかつて被告の抗弁内容の二点即ち被告の当事者能力の問題と訴訟要件たる権利保護の要件併せて訴権濫用の有無の点である。先ず第一に被告の当事者能力の有無の点につき勘案するに凡そ当事者能力とは民事訴訟の当事者となることのできる一般的能力をいうもので判決手続についていえば原告として訴え又は被告として訴えられるための適応能力で実体法上の権利能力に対し訴訟主体として訴訟法上の効力を受けるに必要な訴訟法上権利能力又は人格ということができよう。勿論どんな実体に対してこの能力を与えるかは訴訟法独自の立場から決定するもので、前示実体法上の権利能力とは必然的に一致しなければならない理由はないが、民事訴訟法が当事者能力を民法等の規定に従うこととしているのは民法上の権利能力者である自己及び法人並びに法人にあらざる社団財団をすべて当事者能力者とする趣旨である。ところが原告並びに被告の主張するように検察官は検察庁法の定むるところの組織体制によつてその職務権限を有し、国家の機関として広く検察事務を管掌する行政官庁で、国の公益を代表する性格をも併せ具有するものともいわれ各庁長はそれぞれ上下官の組織において事務遂行上検事一体の原則により指揮監督命令服従の職責を有するも、具体的被告事件に関しては一切の証拠等につき取捨選択の自由を有し、何等被告人の意思に左右されることなく、各被告事件にそく応した処置を講じ得るものであるが、その物的証拠換言すれば証拠書類等については民法上即ち私法上の権利義務なくそのものの利益享有の観念はないから権利能力者ではなく、従つて訴訟法上の当事者能力者ではないから被告として訴えられる適格は有しないものである。その資格において民事訴訟法上の特定事件の当事者能力を有するものとする場合は行政事件訴訟法や国の利益に関係ある訴訟についての法務臣大の権限等に関する法律の規定する如く特段の制定あることを要するものでこれなき以上消極に解する外なかろう。従つてこの点において本件訴は不適法といわなければなるまい。以上訴訟要件たる権利保護要件の資格の問題であるが次は訴訟要件としての対訴訟物関係についての、即ち前示第二の争点で、権利保護の利益乃至は必要性の問題である。即ち原告が被告に対する関係で自已の請求の当否について本案判決を求める利益乃至必要の存する場合でなければこれについて権利保護を与える必要がないのであつて、その欠缺する場合は訴訟物である権利又は法律関係の存否が明白であつても本案判決をすることなく、訴訟を不適法として処理しなければならない。なお権利保護の利益(必要)は各種の訴について個々的に特殊なものもあるが、延いては訴権の濫用とも関連性あるものである。本件の如き物の給付を内容とする訴訟においてその訴訟物たる書類を現実に原告に返還提供し、原告においてこれを容易に受領し得る状態にありながら拒否し他の意図の下に敢て訴によつてその返還を求むることはこれに対し判決による権利保護を与える必要(利益)あるかは問題である。即ち原告は自已に対する前記器物毀棄被告事件の有罪確定し終結後先に当被告事件の証拠書類として湯沢区検察庁に領置された本件係争書類四通につき当検察庁から返還するから出頭されたい旨の催告を受け、出頭するもその受領を拒み、昭和三四年一〇月一四日にも出頭しながら該証拠書類は当時の担当検察官から隠蔽されたのだから適法な手続によらなければ受領することはできなとこれいを拒否したため、当検察庁は困惑の末昭和四〇年一月三〇日これを郵便に託して原告方に送付したところ、一且受領したものの又々同年二月二日これを自已の責任において最高検察庁宛て郵便で送り返したので同庁では湯沢区検察庁に廻送し、同検察庁において保管中原告から昭和四〇年一月一二日附で本訴が提起され爾来口頭弁論進行中のところ、昭和四〇年四月一三日の第二回口頭弁論法廷において同検察庁事務官長谷周悦が原告の面前に本件書類を返還すべく履行の提供をなしたるも原告は該書類が阿部勉検察官によつて隠蔽され、被告事件の証拠として採用されなかつたことを文書で明らかに確認されぬ以上受領することはできない旨釈明し、これを拒否したことは当事者の認むるところであると同時に又当裁判所に顕著な事実である。斯のような原告の所為は甚だ了解に苦しむところで、本訴が果して物の返還そのものを目的とするものであるか或は他に不純な意図があるかは疑問である。即ち原告において真に物の返還を目的とするものなら至極容易に受領し得るにかかわらずこれを拒否するは悪意に訴を利用して勝訴の結果を得自已の被告事件の有罪について更に抗争する資料を得んとするものか又は告訴人に対して感情的な満足を得ようとするものなることは原告の主張と併せて弁論の全趣旨から推して容易に判断することができるところである。斯のような訴訟に対しては果して判決によつてその権利を保護するの必要性あるだろうか、正に否定せざるを得ない。裁判請求権は国民の基本的人権の一つであることは原告のいう通りであるが、併しその濫用は決して許容さるべきものではなく、かような訴は不適法なものといわなければならない。果して然らば他に以上認定を左右する証拠なく且つこれに反する主張は採用するに由ないから、以上認定の何れの点からするも本件訴は不適法として却下されるべきものである。訴訟費用については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阿部季)

別紙目録<省略>

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